言語化が上手い人がやってる事
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会議が終わって、自分の席に戻ったとき。
「あのとき、ああ言えばよかった」
言いたいことは確かにあった。頭の中では、ちゃんとわかっていた。なのに、口から出たのは「なんか、違う気がするんですよね」だけ。
帰りの電車で、完璧な反論を思いつく。もう誰も聞いていない。
一方で、同じ会議で、たった一言で場をまとめた人がいる。
どの会社にもある光景です。
「言語化が上手い人は、語彙力がある人」
多くの人がそう思っています。本をたくさん読んでいて、言葉の引き出しが多くて、頭の回転が速い人。
でも、言語化が上手い人を近くで見ていると、ちょっと違う景色が見えてきます。
言語化が上手い人の正体は、言葉をたくさん知っている人ではありません。頭の中を、何度も外に出している人です。
「結局、メモを取れという話か」と思った方にこそ読んでほしい。
これは文章術の話ではありません。頭の中にあるはずの考えが、なぜ口から出てこないのか。その仕組みの話です。
言語化が上手い人がやっていることを、5つに絞りました。
読み終わる頃には、「言語化」という言葉の意味が変わっているはずです。
① 人は、説明しようとするまで「わかっていない」ことに気づかない
毎朝通っている駅までの道。
目をつぶっても歩けるくらい、よく知っている道です。
ところが、道を聞かれて口で説明しようとすると、急にあやしくなる。
「えーっと、まっすぐ行って、コンビニ……いや、あれはコンビニじゃなくてクリーニング屋か。で、なんか右に曲がって……」
最後は「もう一緒に行きましょか」になる。
歩けることと、説明できることは別物です。
言語化できない原因の多くは、語彙が足りないことではありません。わかったつもりでいて、実は理解に穴があることです。
ジャーナリストの池上彰さんも、著書『伝える力』の中で、人に伝えるにはまず自分自身が深く理解していなければならない、と書いています。そして、自分がいかに物事を知らないかを知るところから始まる、とも。
11年間、NHKの「週刊こどもニュース」で、子どもにニュースを解説し続けてきた人の言葉です。
これは、いわば「わかったつもりの貯金」です。口座に残高があると思っている。でも、引き出そうとした瞬間に空だとわかる。
会議で言葉が出てこないのは、頭が悪いからではありません。その場で初めて、貯金を引き出そうとしたからです。
わかっている人が説明できるのではない。説明しようとした人だけが、わかっていないことに気づける。
▶実践法 ・会議で意見を言う前に、言いたいことを手元のメモに1文で書く。1文にならなければ、まだ考えが固まっていないサイン ・大事な判断をする前に、「なぜそうするのか」を3行で書く。箇条書きではなく、つながった文章で
② 言語化が上手い人は、「自分との会議」を先に済ませている
会議で急に振られる。
「〇〇さんはどう思う?」
一瞬で頭が真っ白になって、「そうですね……いいと思います」。何がいいのか、自分でもわかっていない。
一方で、同じように振られても、すっと答えられる人がいます。
頭の回転が速いから、ではありません。料理と同じです。
注文が入ってから慌てて野菜を切り始める店は、料理が出てくるのが遅い。早い店は、腕がいいのではなく、仕込みが終わっている。
言語化が上手い人は、会議の前に、頭の中の仕込みを終わらせているのです。
「世界は誰かの仕事でできている。」などのコピーで知られるコピーライターの梅田悟司さんも、著書『「言葉にできる」は武器になる。』で同じことを言っていました。
言葉には、人に向けて発する「外に向かう言葉」と、頭の中で考えるときに使う「内なる言葉」の2つがある。伝わる言葉を生むには、まず内なる言葉と向き合うことが欠かせない。そのために「自分との会議時間」を確保する、と。
言葉のプロでさえ、気の利いた言い回しを探す前に、自分が何を考えているかを掘っている。
言葉が出てこない人は、言い回しを探しています。言葉が出てくる人は、自分の考えを探しています。
これは、いわば「頭の中の仕込み」です。客の前で包丁を握る人と、仕込みを終えて待っている人。腕の差に見えて、実は準備の差です。
言葉が出てこない人は、言い回しを探している。言葉が出てくる人は、自分の考えを先に探している。
▶実践法 ・会議の前に5分だけ、議題ごとに「自分はどう思うか」を1行ずつ書いておく。振られてから考えない ・1日1回、移動中に「今日いちばん引っかかったことは何か」「それはなぜか」を自分に聞く。これが自分との会議になる
③ 伝わらない人は、相手の頭に「曲が流れていない」ことを忘れている
ここまでは、自分の頭の中の話でした。
ここからは、相手に伝える話です。
言語化が下手な人の多くは、実は自分の中ではもう言語化できています。問題は、それが相手に届いていないことに気づけないことです。
1990年、スタンフォード大学の大学院生エリザベス・ニュートンが、博士論文のためにある実験をしました。
参加者を「叩く人」と「聞く人」に分けます。叩く人は「ハッピーバースデー」のような誰でも知っている曲を選び、そのリズムを指で机に叩く。聞く人は、それが何の曲かを当てます。
叩く前に、叩く人に予想してもらいました。「相手は何%くらい当てられると思うか」。
予想は50%でした。
実際に叩かれた曲は120曲。聞く人が当てられたのは、わずか3曲。2.5%でした。
なぜここまでズレるのか。
叩いている人の頭の中では、メロディが流れているからです。でも、聞いている人に聞こえているのは、机をコツコツ叩く音だけ。
叩く人は、メロディが聞こえない状態を、もう想像できなくなっています。これが「知識の呪い」と呼ばれる現象です。
身に覚え、ないでしょうか。
上司「あれ、いい感じにしといて」 部下「はい!」 (3日後) 上司「いや、そうじゃなくて」
上司の頭の中には、完成形がフルコーラスで流れていました。部下に聞こえていたのは、「いい感じに」という机の音だけです。
これは、いわば「頭の中のBGM」です。自分にしか聞こえていないのに、相手にも聞こえていると思い込んでいる。
そして「なんで伝わらへんねん」と思ったとき、悪いのは聞く側の耳ではなく、叩く側の想像力のほうかもしれません。
話す側は、曲を聴いている。聞く側は、机の音しか聞いていない。
▶実践法 ・指示を出したら、「どう理解した?」と部下自身の言葉で言い返してもらう。ズレはその場で見つかる ・「ちゃんと」「しっかり」「いい感じに」を使いそうになったら、具体例を1つ足す。「先月の〇〇の資料くらいの粒度で」のように
④ 感情に名前をつけると、頭が冷える
夜11時。部下から、ちょっと引っかかるLINEが届く。
カチンときて、長文で返す。送信。スッキリ。
翌朝、読み返して頭を抱える。
「なんでこれ送ったんやろ……」
誰にでも一度はある夜です。
言語化が上手い人には、もう1つ共通点があります。感情的になりにくいことです。
性格が穏やかだから、ではありません。自分の感情に、名前をつけているからです。
あの夜のLINEを思い出してみてください。あのとき感じていたのは、本当に「怒り」だったでしょうか。
よく考えると、「任せた仕事が進んでいない焦り」だったかもしれない。「自分が軽く扱われた気がした寂しさ」だったかもしれない。「明日の取引先への報告が怖い不安」だったかもしれない。
「イラッ」とひとまとめにしているうちは、感情はただの大きな音です。でも「これは焦りやな」と名前がついた瞬間、それは扱える情報に変わります。
焦りなら、部下を責めるより先に、段取りを確認すればいい。不安なら、取引先への説明を準備すればいい。
火災報知器が鳴り続けている部屋では、誰も落ち着いて考えられません。名前をつけるのは、報知器を止めて「台所のフライパンからやな」と火元を見つけることです。
感情的になる人は、感情が強すぎるわけではありません。火元がわからないまま、警報だけが鳴り続けているのです。
感情を飲み込む人は、感情に振り回される。感情に名前をつける人は、感情の手綱を握る。
▶実践法 ・カチンとくるLINEやメールが来たら、返信する前に「今の感情は〇〇」と一語だけメモに書く。「焦り」「悔しさ」「不安」「寂しさ」のどれかで十分 ・夜に書いた長文の返信は、下書きに入れて朝に読み返してから送る
⑤ 書いて外に出した人は、次に進むのが速い
スマホの写真フォルダ、何枚入っていますか。
1万枚を超えている人も多いと思います。でも、そのうち見返したことがある写真は、ほんの一握りです。
頭の中の経験も、同じです。
毎日いろんなことが起きて、いろんなことを感じている。でも、整理しないまま放り込んでいるから、いざ使おうとしても見つからない。
逆に、失敗や嫌な出来事ほど、頭の中で勝手に再生され続ける。夜中に急に思い出して、布団の中で「うわぁ」と声が出る。あれです。
SHOWROOMを立ち上げた前田裕二さんは、365日メモを取り続ける「メモ魔」として知られています。著書『メモの魔力』では、メモで自分を知ることに1章を割いていて、就職活動のときには自己分析のノートを30冊書いたと明かしています。
メモは、忘れないための道具ではない。自分の頭の中を外に出して、眺めるための道具です。
頭の中にあるうちは、経験はただの「もやもや」です。紙に書いて外に出すと、初めて眺められる。眺められると、「あ、自分はいつもここで判断を間違えるんやな」と、パターンが見えてくる。
経営者にも、言葉にしないまま抱えている失敗があります。採用の失敗、撤退した事業、離れていった仲間。
頭の中に置いたままの失敗は、ただの痛い記憶です。言葉にした失敗は、次の判断に使える教科書になります。
頭の中に置いた経験は、重荷になる。言葉にした経験は、武器になる。
▶実践法 ・大きな失敗のあとは、20分だけ「何が起きたか」と「どう感じたか」を両方書き出す。誰にも見せなくていい ・月に1回、その月いちばん迷った判断を3行で書き残す。半年後に読み返すと、自分の判断のクセが見えてくる
まとめ
・人は説明するまで、わかっていないことに気づかない ― 毎日歩く道も、口で説明するとあやしくなる ・言語化が上手い人は、自分との会議を先に済ませている ― 言葉が出るかどうかは、腕ではなく仕込みで決まる ・伝わらないのは、相手に曲が聞こえていないから ― 50%当たると思った曲は、2.5%しか当たらなかった ・感情に名前をつけると、頭が冷える ― 「イラッ」の正体が焦りか不安かで、打つ手が変わる ・書いて外に出した人は、次に進むのが速い ― 頭の中の失敗は痛い記憶、言葉にした失敗は教科書になる
気づいたでしょうか。
この5つのどれ一つとして、「語彙を増やせ」とは言っていません。
言語化が上手くなりたい人ほど、本を読み、言い回しを覚え、話し方を学びます。真面目な人ほど、そうします。でもその努力が、頭の中にしまったまま終わっていることだけが、知られていない。
言語化が上手い人の正体は、語彙力がある人ではなく、頭の中を何度も外に出している人です。
語彙は、何年もかけないと増えない。
書き出す回数は、今日から1回増やせる。
あなたの言葉の切れ味は、知っている言葉の数ではなく、頭の外に出した回数で決まっています。
最後に
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
普段は、参加者の店舗数が合計1000店舗を超える経営者コミュニティの運営現場から見えた「人・組織・学び」の本質を発信しています。
この記事の続き――言語化が上手い経営者の会社では、なぜ指示が一度で通り、人が育つのか――は、フォロワーの方に向けて今後お話ししていきます。
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出典
・池上彰『伝える力』(PHPビジネス新書, 2007) ・梅田悟司『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社, 2016) ・Newton (1990), Stanford University 博士論文 ・前田裕二『メモの魔力』(幻冬舎, 2018)


