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iDeCoは節税ではなく、税金の先送り

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先に、30年後の話をします。

あなたが60歳になって、iDeCoの画面を開く日のことです。

画面には、積み上がった金額が出ています。掛金と運用益の合計です。

ここまでは多くの人が想像しています。

想像されていないのは、その次の画面です。

受け取り方を選ぶ欄があります。選び方によって、手元に残る額が変わります。

つまり出口には、まだ精算が残っている。

iDeCoは節税の制度として紹介されます。掛金が全額所得控除になり、年末調整で税金が戻る。ここまでは事実です。

ただ、戻ってきたお金は消えたわけではありません。

60歳の画面まで、順番待ちをしているだけです。

先に断っておくと、これはiDeCoをやめろという話ではありません。得をする人ははっきり存在します。ただし、その条件はパンフレットに書かれていない場所にあります。

公的機関の一次情報だけで、5つに絞りました。

読み終わる頃には、節税という言葉の意味が変わっているはずです。

①戻ってきた税金は、値引きではなく預かり証

最初に壊すのは、所得控除という言葉の受け取り方です。

iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除として全額が所得から引かれます。年末調整で実際にお金が戻ってくる。この体験があるから、多くの人は「税金が安くなった」と理解します。

ところが控除は税金を消す仕組みではありません。

その年に課税する対象から外し、受け取る年に回しているだけです。

規模を見てください。

国民年金基金連合会の発表では、2026年5月時点のiDeCo加入者は約398.0万人。2026年3月末の集計では、平均掛金は月1万6655円でした。加入者の85.5%を占める会社員や公務員に限ると、月1万5409円です。

年間で約20万円。所得税と住民税を合わせた実効税率が20%の人なら、毎年4万円ほどが戻ります。30年で120万円。

この120万円はもらったお金ではありません。

60歳の画面で精算する前提で、先に手元に置かせてもらっているお金です。

引かれなかった税金は、消えたのではない。出口に並んでいる。

▶実践法

・直近の源泉徴収票で自分の所得税と住民税の実効税率を出す。年末調整で戻った額ではなく、率で把握する

・その率を紙に書いて残す。60歳のとき、この数字と比べることになる

②iDeCoは、控除の枠を退職金と取り合う制度

では出口で何が起きるのか。

受け取り方は2つあります。一時金か、年金か。

一時金で受け取ると退職所得として扱われます。

国税庁のタックスアンサーNo.1420によれば、退職所得は次の式で計算されます。

(収入金額 − 退職所得控除額)× 2分の1

退職所得控除額は勤続年数で決まります。20年以下の部分は1年あたり40万円。20年を超える部分は1年あたり70万円です。30年なら800万円に70万円×10年を足して、1500万円になります。

この式だけを見ればたしかに有利です。控除を引いたうえに、残りを半分にしてから税率をかける。

問題は、この控除の枠がiDeCo専用ではないことです。

会社の退職金も同じ枠を使います。iDeCoの加入期間と勤続期間が重なっていれば、重なった分の控除は一度しか使えません。

年金として受け取る場合も同じ構造です。公的年金等控除の枠を厚生年金や国民年金と共有することになります。

非課税と呼ばれているものの正体は、枠の共有です。

iDeCoは、税金を消す制度ではない。控除の枠を、退職金と取り合う制度だ。

▶実践法

・会社の退職金規程を開き、自分の勤続年数での支給見込み額を確認する。多くの人が一度も見ていない

・その見込み額が退職所得控除の枠をすでに使い切っていないか計算する。使い切っていれば、iDeCoの一時金は枠の外に出る

③2026年1月、出口が5年ぶん遠のいた

3つ目は制度そのものが動いた話です。

これまで対策として知られていた方法がありました。iDeCoを60歳で一時金として受け取り、退職金は65歳で受け取る。5年空ければそれぞれの控除を満額使える。5年ルールと呼ばれていました。

2026年1月1日以降に受け取る分から、この期間が延びました。

国税庁のタックスアンサーNo.2732にある調整の対象期間が、前年以前4年内から前年以前9年内に変わりました。実務上は10年ルールと呼ばれます。

つまり60歳でiDeCoを受け取ってから65歳で退職金を受け取ると、以前は使えた控除が減ります。満額で使うには、70歳まで空ける必要が出てきました。

なお、退職金を先に受け取る場合の調整期間は前年以前19年内のままです。

ここで見るべきは税額の増減ではありません。

2017年にiDeCoを始めた人は5年ルールの世界で加入しています。出口のルールが、加入したあとに動いた。

制度は、入るときのルールで終わらない。出口の条件は、あとから動く。

▶実践法

・iDeCoの受取開始予定年と会社の退職金の受取予定年を、西暦で並べて書く。間隔が何年空くかを数える

・順番を入れ替えた場合の間隔も、同じ紙に書いておく。判断はまだしなくていい。並べるところまでを今日やる

④60歳まで、1円も動かせない

4つ目は税金ではなく資金の話です。

iDeCoは年金制度です。だから原則として60歳になるまで引き出せません。

途中で解約して現金化する道は実質的に閉じています。脱退一時金の要件は厳しく、多くの人は該当しません。掛金を止めて運用だけ続けることはできますが、資産は口座の中に残ったままです。

加入期間が短いと、受け取り開始はさらに後ろにずれます。通算の加入期間が10年に満たない場合、60歳ではなく61歳から65歳のいずれかが開始年齢になります。50代で始めた人ほどこの影響を受けます。

これは制度の欠陥ではありません。老後資金を守るための設計です。

ただし家計から見れば、意味が1つあります。

iDeCoに入れた分だけ、動かせるお金が減る。

住宅の頭金、子どもの進学、独立や転職の準備金。30代から50代のあいだに起きる支出は、60歳まで待ってくれません。

動かせないお金は、資産ではある。ただし、選択肢ではない。

▶実践法

・今後10年以内に必要になる可能性がある支出を、金額と時期で3つ書き出す。教育・住宅・独立のどれか

・その合計額が手元の現預金でまかなえるか確認する。まかなえない状態でiDeCoの掛金を上げない

⑤掛金が少ない人ほど、手数料の率は重くなる

最後は、いちばん地味で見落とされるものです。

iDeCoには運用商品とは別に、口座を持つだけでかかる手数料があります。

国民年金基金連合会に月105円。資産を管理する信託銀行に月66円。合計で月171円、年2052円です。これは金融機関を選んでも下がりません。加入時には別に2829円がかかり、受け取るときも1回あたり440円の送金手数料が引かれます。

さらに国民年金基金連合会は、この手数料を2027年1月納入分から月120円に引き上げると発表しています。消費税の変更に伴うものを除けば、15年ぶりの引き上げです。

ここで効いてくるのが、手数料が率ではなく額で決まっていることです。

平均の月1万6655円を拠出している人なら、月171円は約1.0%にあたります。

下限の月5000円で始めた人にとっては、約3.4%です。

同じ制度で同じ商品でも、掛金の少ない人だけが3倍以上のコストを払っている。

手数料は、率ではなく額で決まる。だから、少額の人ほど率が上がる。

▶実践法

・月171円を自分の掛金額で割ってパーセントを出す。1%を超えるなら、掛金を上げるか他の非課税制度と役割を分ける

・運営管理機関の手数料が無料かどうかを確認する。ここだけは金融機関の選択で変えられる

まとめ

iDeCoを、5つの事実に圧縮します。 ・戻ってきた税金は預かり証 — 所得控除は課税を消さず、受け取る年に移している ・控除の枠は共有 — 退職所得控除も公的年金等控除も、退職金や公的年金と取り合う ・出口の条件は動く — 2026年1月から調整期間が前年以前4年内から9年内に延びた ・60歳まで動かせない — 途中の解約は実質的に閉じており、加入10年未満は開始年齢も後ろにずれる ・手数料は額で決まる — 月171円は掛金1万6655円なら約1.0%、5000円なら約3.4%

気づいたでしょうか。

この5つはiDeCoが悪い制度だという話ではありません。得か損かを決める場所が、パンフレットの外にあるという話です。

iDeCoで得をするのは、掛金が多い人でも運用が上手な人でもない。

掛けている今の税率が、受け取るときの税率より高い人です。

その差が大きいほど得をして、逆転すれば損をする。

だから数えるべきは、戻ってきた金額ではありません。2つの税率の差です。

なお実際の税額は、勤続年数や退職金の額や受け取る順番で変わります。最終的な判断は自分の源泉徴収票と退職金規程を並べたうえで、税理士や社会保険労務士に確認してください。

節税額は、パンフレットに書いてある。

税率の差は、自分でしか計算できない。

全文完
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