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Jリーグは、いつまで「集客」を成功と呼ぶのか BリーグとSVリーグが突きつけるプロスポーツ経営の現実

最近のスポーツビジネス界で、ある言葉を耳にする機会が増えた。

「BリーグがJリーグを抜くのは時間の問題」

もちろん、Jリーグが衰退することを望んでいるわけではない。

むしろ、日本のプロスポーツを牽引してきたJリーグには、これからも成長を続けてほしいと思っている。

しかし、両リーグの経営戦略を比較すればするほど、この言葉が単なる勢いの違いを表現したものではないように感じる。

観客数でも、売上高でもない。

消費者やスポンサー企業が限られた時間と予算を配分するとき、合理的な選択肢としてBリーグが優先される世界が近づいているのではないか。

その背景には、両リーグのマーケティング思想と経営構造の違いがあると考えている。


1. 観客数の増加は、マーケティングの成功なのか

まず、Jリーグが成長していないという認識は正しくない。

2025シーズンの公式戦総入場者数は約1,350万人となり、過去最多を更新した。

2026-27シーズンの開幕に際しても、全国22万人を対象とする招待キャンペーンやテレビCMなど、大規模なマーケティング施策が展開されている。

実際、2025年の招待施策では延べ約282万件の応募を集め、新規JリーグIDを約14.6万件獲得し、新規来場者のリピート率は30%を超えたという。

これだけを見れば、マーケティング施策として一定の成果が出ているように見える。

しかし、私はここに以前から違和感を覚えている。

観客数の増加は、マーケティングの成功を意味するのだろうか。

無料招待によって新規来場者を獲得すること自体を否定するつもりはない。

顧客獲得コストを負担してでも新規顧客に商品を体験してもらい、その後の継続購入につなげることは、ごく一般的なマーケティング手法である。

問題は、その先にある。

獲得した顧客が翌年以降も対価を支払って来場するのか。

顧客一人を獲得する費用と、その顧客が将来生み出す利益は見合っているのか。

広告宣伝や招待を縮小しても、顧客の購買行動は維持されるのか。

こうした情報が十分に示されなければ、観客数が増加したという事実だけでマーケティング戦略全体の成功を評価することは難しい。

Jリーグが公表する成長戦略では、toCマーケティングによる新規顧客獲得と定着を起点に、観客数を増やし、協賛・放映価値を高め、フットボールへ再投資するという循環が描かれている。

この考え方自体は理解できる。

ただし、この循環の中で顧客に提供する商品の価値が十分に向上しなければ、新たな成長のために顧客獲得投資を繰り返すことにもなりかねない。

日本代表が国際競争力を高め、Jリーグが30年以上の歴史を積み重ねてきたにもかかわらず、国内リーグへの需要が自然に拡大するとは限らない現実もある。

日本代表の人気と国内クラブへの支持は、必ずしも同じものではない。

だからこそJリーグは、サッカーへの関心を国内クラブへの継続的な購買につなげる商品価値を、改めて問われているのだと思う。


2. Bリーグは顧客を集める前に、商品を変えようとしている

一方、Bリーグは2026-27シーズンからB.PREMIERをスタートさせた。

その中心となるB.革新は、クラブの経営環境を抜本的に変える取り組みである。

競技成績による単年度の昇降格を廃止し、事業基盤を重視する制度へ転換した。

当初の参入基準として提示されたのは、売上高12億円、平均入場者数4,000人、5,000席以上でスイートルームなどを備えるアリーナという明確な条件だった。

審査段階や継続資格によって条件には違いがあるものの、目指すクラブの経営水準を具体的に示した点は重要だ。

島田慎二チェアマンは、アリーナの必要性について、観客に非日常的な体験を提供し、クラブの収益機会を拡大し、選手や地域へ再投資するためだと説明している。

つまり、施設要件を単なる競技開催条件として設定したわけではない。

リーグが目指す商品価値から逆算して、クラブの経営基盤と必要な施設を定義した。

私はここにJリーグとの大きな違いを感じている。

Jリーグがマーケティングによって需要を拡大しようとしている一方で、Bリーグは需要が生まれる商品の価値と、その商品を生み出すための産業構造を変えようとしている。

もちろん、Bリーグも広告宣伝や招待施策を活用しているし、Jリーグも商品開発に取り組んでいる。

違いは手法そのものではなく、成長戦略の重心にあるのではないか。


3. 琉球のLEDコートが示す現代型エンターテインメント

その象徴が、琉球ゴールデンキングスだと思う。

2026年10月8日のホーム開幕戦から、沖縄サントリーアリーナではLED搭載の「VISIONフロア」が導入された。

コート全面を映像演出に活用し、選手入場やハーフタイムだけでなく、タイムアウト中にも新たな体験を提供する。

もちろん、LEDコートに投資すれば必ず収益が増えるという話ではない。

その投資回収には検証が必要だし、同じ設備をすべてのクラブが導入できるわけでもない。

重要なのは、試合そのものを変えずに観戦商品の価値を変えようとしていることだ。

ここには現代の消費行動に対する理解がある。

タイパが重視され、限られた余暇時間の中で、より密度の高い体験が求められる時代。

現代のエンターテインメントにおいては、単にコンテンツを提供するだけでなく、興奮や驚き、共有したくなる瞬間をどれだけ設計できるかが重要になっている。

Bリーグの会場に足を運ぶと、女性客の多さや観客層の広がりを実感することがある。

実際、Bリーグの2024-25シーズンの会員入場者データでは、女性比率が52.4%を占めている。

一方、若年層がJリーグより多いかどうかについては、調査対象や年齢区分を統一した検証が必要だろう。

それでも、競技を詳しく知らなくても楽しめるアリーナ興行が、新たな顧客層を獲得する可能性を持っていることは確かだ。

SNSで観戦体験を共有するUGCも重要になる。

Bリーグは公式に観戦Vlogの制作や投稿を促しており、琉球もVISIONフロア導入に合わせて観客による写真や動画の発信を促している。

つまり、観客自身がマーケティングの担い手になる仕組みがある。

これは単なるSNS活用ではない。

顧客が自発的に発信したくなる体験を、商品側に組み込むという発想である。

さらに、人気クラブではチケット需要が高まり、限定された座席の希少性や特別な観戦体験を価格に反映する余地も生まれる。

消費者に安く来場してもらうことと、消費者が高い対価を支払いたくなること。

どちらもマーケティングとして成立するが、そこから生まれる事業構造は大きく異なる。


4. 両チェアマンの差は、クラブを動かす仕組みに表れている

ただ、私は両リーグの違いを、単なるマーケティング戦略の差だけで説明するのは不十分だと思う。

より大きな違いは、リーグが掲げた戦略をクラブの経営行動に結び付ける仕組みにある。

Bリーグでは、クラブが目指すべき経営規模や施設環境がライセンス制度に組み込まれている。

達成できなければ、トップカテゴリーへの参入や継続に影響する。

そのためクラブ経営者は、売上拡大、入場者数の増加、アリーナ整備を重要な経営課題として認識せざるを得ない。

言い換えれば、リーグの成長戦略とクラブの経営上のインセンティブが一致するように設計されている。

一方のJリーグにも当然、厳格なクラブライセンス制度が存在する。

財務や施設の基準を設けており、制裁やライセンス不交付の仕組みもある。

しかし、制度全体としては競技参加資格や健全性の確保という性格が強く、クラブがどのような商品価値を創造し、どのような収益構造を目指すべきかという部分では、Bリーグほど直接的な経営上の誘因を与えているようには見えない。

2026-27シーズンのJ1ライセンスは49クラブに交付され、施設基準についてはJ1・J2ライセンスで計12クラブに例外規定が適用された。

例外規定そのものが悪いわけではない。

地域ごとに人口規模、経済環境、自治体の財政状況が違う以上、一定の柔軟性は必要である。

ただし、多様な関係者への配慮によって、リーグが目指す経営モデルが曖昧になっていないだろうか。

リーグが成長戦略を示しても、クラブが必ずしもそれに沿って経営資源を配分するとは限らない。

競技成績への投資、昇格への対応、スタジアム確保など、目先の課題が優先されることもある。

ここには、リーグの戦略がクラブの経営行動に十分浸透しない構造的なリスクがある。

私は、島田チェアマンと野々村チェアマンの違いを、発言の上手さだけで評価したいわけではない。

リーグ経営者の責任は、将来像を語ることだけでなく、その将来像に向けてクラブが行動する制度をつくることにあるのではないか。


5. なぜ施設要件の厳しいBリーグは「税リーグ」と批判されにくいのか

ここで、もう一つ興味深い矛盾が生まれる。

スタジアムの公共投資をめぐって、Jリーグには「税リーグ」という批判が向けられることがある。

しかし、施設要件という観点では、B.PREMIERも相当厳しい基準を設けている。

5,000席以上に加え、スイートルームやラウンジなどの商業機能まで求めている。

その整備に多額の公費が使われるケースもある。

例えば、秋田県が進める新県立体育館のPFI事業は、契約額が約325億円に上る。

施設はプロバスケットボール専用ではなく、公共体育館としての機能も持つが、B.PREMIERの施設基準への対応が整備条件の一つになっている。

つまり、Bリーグも公共投資と無縁ではない。

むしろ、施設投資をクラブの事業成長と強く結び付けている分、公共部門に対して大きな負担を求める可能性もある。

それなのに、なぜ公共投資をめぐる批判の受け止められ方が異なるのだろうか。

私は、リーグが示すメッセージと事業モデルの違いが、その一因ではないかと考えている。

Bリーグは、アリーナを顧客体験を高めるための設備であり、コンサートやMICEなどにも活用できる多用途施設として説明しやすい。

一方で、Jリーグのスタジアム整備は、上位カテゴリーへ参入するための施設要件を満たすことが、説明の出発点になりやすい。

もちろん、すべてのスタジアムやアリーナにこの構図が当てはまるわけではない。

しかし、施設を整備する必要性と、施設に投資する合理性は本来別の話である。

ここを混同してはいけない。

そしてBリーグについても、多用途施設だから公共投資が合理的だと自動的に判断できるわけではない。

建設費、維持管理費、更新費用、稼働率、公共便益に加えて、施設から生まれる利益が誰に帰属するのかまで検証すべきだろう。

JリーグにもBリーグにも、同じ説明責任が求められるべきだと思う。


6. そしてSVリーグは、さらに異なる成長戦略を描いている

ここに新たな勢力として加わるのがSVリーグだ。

大河正明チェアマンは、JリーグとBリーグの両方で経営に携わってきた人物である。

そのSVリーグは、2030-31シーズンのリーグ・クラブ総事業規模500億円、年間総入場者数250万人を掲げている。

興味深いのは、国内市場だけで成長しようとしていないことだ。

タイやフィリピンなどのアジア市場を開拓し、海外での事業展開や公式戦開催、欧州リーグとの提携も視野に入れている。

2025-26シーズンには、日本を除く全世界で全試合を配信する仕組みも整えた。

Bリーグが進めてきたアリーナを中心とする興行モデルを参考にしながら、バレーボールが持つ国際的な競争力を活用して海外市場に成長機会を求めている。

この戦略は非常に合理的に見える。

しかもSVリーグは、2026年2月に将来の5,000席要件を一部緩和する方針も決定した。

人口規模が限られる地域では、一定の条件を満たせば5,000席未満でも認める仕組みである。

重要なのは、単に基準を緩めるのではなく、入場料収入を確保するための施策などを条件としていることだ。

規律と柔軟性を両立させようとする制度設計として興味深い。

もちろん、海外配信が実際の収益に結び付くか、世界的なリーグへ成長できるかについては、これからの検証が必要になる。

それでも、国内でどのようなリーグをつくり、海外のどの市場を取りに行くのかという方向性は明確だ。

文章配图


7. Jリーグは問題を認識していないわけではない

ここまで書くと、Jリーグが商品価値の改善に取り組んでいないように受け取られるかもしれない。

しかし、そうではない。

2025年の公式シーズンレビューでは、Jリーグのプレミアム席が全体の約1%にとどまることや、ホスピタリティ事業が十分に開拓されていないことが説明されている。

同年のルヴァンカップ決勝では、高価格帯のホスピタリティチケットを販売し、販売枚数では全体の約1%ながら、チケット収益の約10%を占めたという。

これは非常に重要な成果だと思う。

Jリーグの中にも、観客数を増やすこと以外で収益を拡大する余地が明確に存在している。

新スタジアムを整備した広島や長崎でも、施設や観戦体験を起点とする事業モデルの可能性が示されている。

Jリーグ自身もホスピタリティ事業の強化に着手しており、2027-28シーズンからはクラブライセンスにマーケティング基準を導入する。

だからこそ、私は危機感を覚える。

課題を認識しているのに、リーグ全体の構造改革として十分な速度で実行できているのだろうか。

60クラブそれぞれの事情を尊重することは大切である。

しかし、多様性への配慮が、変革しないことを許容する理由になってはいけない。


8. 本当に怖いのは、Jリーグからファンが離れることではない

B.PREMIERが始まったばかりの現時点で、Bリーグが平日でも安定して観客を集められると断定するのは早い。

リーグの制度改革が、持続的な収益性向上につながるかも未知数だ。

それでも、Bリーグのアリーナを訪れると、平日の仕事帰りや週末の余暇を過ごすためのエンターテインメントとして、観戦体験が設計されていることを感じる。

ここでJリーグにとって、本当に怖い未来を考えたい。

それは、既存のサッカーファンが突然バスケットボールへ移ってしまうことではない。

これからスポーツ観戦を趣味にする若い世代が、最初からBリーグを選ぶようになることだ。

企業も同じである。

地域スポーツへのスポンサー予算が限られている場合に、顧客接点、ホスピタリティ、ブランド価値、投資対効果などを比較し、Bリーグクラブを優先する企業が増えていく可能性はある。

その変化が各地域で積み重なれば、Jリーグ全体の観客数が増えていたとしても、新たな需要や投資機会を取り逃がすことになる。

市場全体が成長することと、その市場で選ばれ続けることは同じではない。

今のJリーグが見なければならないのは、過去の自分たちとの比較だけではないはずだ。


9. Jリーグに問いたいのは、観客数ではなく経営の成果

私は、Jリーグが無料招待をやめるべきだと言いたいのではない。

TVCMもSNSも無料招待も、目的に対して合理的であれば有効な手段である。

ただし、マーケティング施策の成果と、リーグの成長戦略そのものの成功は区別する必要がある。

新たに獲得した顧客が、どれだけの収益と利益を生み出したのか。

顧客獲得コストと顧客生涯価値は、どう変化したのか。

クラブはスポンサーに対して、以前より高い価値を提供できているのか。

観戦体験に対する顧客の支払意思額は高まっているのか。

そして何より、リーグの成長戦略によってクラブの経営行動はどれだけ変わったのか。

こうした問いに答えられなければ、観客数が過去最多になったとしても、事業構造が改善しているとは限らない。

Bリーグにも課題はある。

急速な施設投資が過剰投資にならないか。施設の公共負担が合理的か。競技成績による降格がなくなった環境で競争力を維持できるか。

いずれも今後問われるべき重要なテーマだ。

それでも、Bリーグは自らの産業構造を変えることに踏み出した。

SVリーグも、後発であることを生かして国内外の市場に向けた成長戦略を実行しようとしている。

Jリーグはどうだろうか。

「BリーグがJリーグを抜くのは時間の問題」

この言葉を、単なる観客数や売上規模の逆転予想として捉えるべきではないと思う。

本質は、変化する消費市場の中で、どのリーグがより魅力的な事業環境をつくり、消費者と企業から選ばれる存在になれるかという競争である。

Jリーグには、長い歴史と地域に根付いた文化がある。

それはBリーグにもSVリーグにも簡単には模倣できない、大切な資産だ。

しかし、歴史や社会的意義は、将来も選ばれることを保証してくれるものではない。

むしろ成熟したリーグだからこそ、過去の成功モデルを見直す勇気が必要なのではないか。

私は、Jリーグの成長を願っている。

だからこそ、観客数が増えている今のうちに、その先の経営戦略を問い直すべきだと思う。

Jリーグの本当の危機は、観客数が減ることではない。

観客数の増加を成功と捉え続ける間に、次の世代の消費者と企業から選ばれなくなっていくことではないだろうか。


参考資料

Jリーグ「J.LEAGUE Season Review 2025」 https://aboutj.jleague.jp/seasonreview2025/topics/attendances/

Jリーグ「2026-27シーズン開幕招待キャンペーン」 https://www.jleague.jp/news/article/34397/

Jリーグ「ホスピタリティビジネスの拡大に向けて」 https://aboutj.jleague.jp/seasonreview2025/fanengagement/fa_2/

Jリーグ「クラブライセンス」 https://www.jleague.jp/corporate/about_jclubs/license_jclubs/

Bリーグ「島田コミッショナー特別インタビュー」 https://www.bleague.jp/new-bleague/interview/

Bリーグ「データで見るB.LEAGUE」 https://www.bleague.jp/indata/

Bリーグ「みんなのB.LOG」 https://www.bleague.jp/b-log/

琉球ゴールデンキングス「VISIONフロア」 https://goldenkings.jp/our-arena/vision-floor/

秋田県「新県立体育館整備・運営事業」 https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/89232

SVリーグ「REBORNⅡ」 https://www.svleague.jp/special/reborn2/

SVリーグ「ホームアリーナ要件の基準変更」 https://www.svleague.jp/news/detail/23878/

全文完
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