若手が育つまで待たない。売上8740億サイバーエージェントの「抜擢」の仕組み
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「まだ早い」
「もう少し経験を積んでから」
「任せて失敗されたら困る」
部下に仕事を任せるかどうか迷ったとき、一度は頭に浮かぶセリフだと思う。
普通なら、一人前になるまで待ってから任せる。
でも、サイバーエージェントの考え方は逆だ。
任せるから、一人前になる。
サイバーエージェントは、グループ全体の社員数が8,000名近く。ビジネス職の新卒だけで毎年約200名が入社する。
OpenWorkの「Z世代が評価する『20代成長環境』スコアが高い企業」(2024年8月)では1位になっている。
2025年12月に社長に就任した山内隆裕氏も、2006年の新卒入社だ。
この会社の若手育成は「研修」ではなく「抜擢」から始まっている。
今回は、サイバーエージェントが若手に仕事を任せるときに、何を考え、どんな仕組みで回しているのかをまとめる。
① 抜擢とは「肩書を上げること」ではない
「抜擢」と聞くと、若手をいきなり部長や子会社の社長にするような話を想像するかもしれない。
でも、サイバーエージェントの定義はもっと地味だ。
公式サイトでは、こう説明されている。
抜擢とは単に肩書を上げることではなく、小さなことでもいいので、期待して仕事を任せること
ポイントは「小さなことでもいい」と「期待して」の2つだと思う。
たとえば、
新人の受け入れ担当を任せる。
定例会議の進行を任せる。
取引先1社の窓口を任せる。
これも立派な抜擢になる。
逆に、どんなに大きな仕事でも、「人がいないから」と押し付けただけなら抜擢ではない。
サイバーエージェントは別の記事で、「決断経験が人を育てる」とも書いている。
肩書ではなく、自分で決める経験をどれだけ渡せるか。
ここが抜擢の中身だ。
② 抜擢→決断→失敗→学習のサイクルで回す
では、任せたあとはどうなるのか。
サイバーエージェントの人事トップ・曽山哲人氏は、人が育つ流れを4つの段階で説明している。
抜擢 ↓ 決断 ↓ 失敗 ↓ 学習
まず「抜擢」は、その人がやったことのない仕事を任せること。
曽山は、本人にやりたいことを表明してもらい、それを後押しする形で抜擢するのが理想だという趣旨の説明をしている。
手を挙げない人には、小さな役割を指名してもいい。
そのうえで、「ポイントは、責任感を醸成することです。」と言う。
次の「決断」では、任された仕事の方向を自分の意志で決める。
そして「失敗」。
ここで面白かったのが、曽山氏が重視している失敗の種類だ。
大事なことは、大きな失敗というよりも、進めるに当たって想定していなかった壁があるなどの小さな失敗の存在
大失敗をさせろ、という話ではない。
自分で決めて進めたからこそぶつかる、小さな壁のことだ。
最後の「学習」では、「この時に、どれだけ軌道修正をして次につなげられるかが大事になります。」と説明している。
任せる側から見ると、失敗はサイクルの途中にあるものになる。
だから曽山氏は「失敗することは当たり前である」という覚悟が、経営や人事、リーダーに組み込まれているかどうかで人の成長が変わる、という趣旨のことを話している。
③ 同じポジションでも「任せ方のセリフ」で結果が変わる
抜擢の話で、一番実用的だと思ったのがここだ。
曽山氏は著書『若手育成の教科書』の中で、「抜擢セリフ」という考え方を紹介している。
同じポジションを任せるのでも、上司Aさんはこう言う。
「山崎さんが今度会社を辞めることになって、ここのポジションが空くことになったんだ。誰でもできる仕事だから、穴埋めとしてやってくれないかな」
上司Bさんはこう言う。
「前々から、Cさんこそこのポジションにふさわしいと思っていたんだよね。チャンスも多いし、仕事もおもしろいと思うから、ぜひやってほしい」
任せる仕事は同じ。
でも、言われた側の気持ちはまったく違う。
Aさんの言い方だと、「自分は穴埋めなんだ」と受け取る。
Bさんの言い方だと、「期待されているんだ」と受け取る。
曽山氏は抜擢セリフの目的を、相手の「自走スイッチ」を入れること、いわば「その気にさせる」ことだと説明している。
①で見た「期待して任せる」は、気持ちの問題ではなく、言葉にして相手に届けるところまでがセットなのだと思う。
④ 「自分で考え、自分で決めて、自分でやる」
なぜここまで「自分で決める経験」にこだわるのか。
創業者の藤田晋氏は、2023年4月、後継者育成のために作った「引き継ぎ書」から3つの考え方を新入社員に紹介している。
その一つが「自分で考え、自分で決めて、自分でやる」だ。
藤田氏はその理由を、こう話している。
仕事をしていて心から面白いと感じるのは、自分で考えて決めた自分のアイデアを実行した時なんですね。
逆に、上が決めたことをトップダウンでやらされる仕事は、辛くつまらないという。
専務執行役員 人事本部長の石田裕子氏も、2026年のインタビューで若手への期待を一言でまとめている。
一言で言えば、「たくさん決断経験を積んでほしい」ということです。
「自分で考えて、自分で決めて、自分で行動する。」その過程で得る学びは、指示されて動いた結果の成功や失敗とは、質も深さも比べものにならないという。
創業者と人事のトップが、別々の場で同じことを言っている。
⑤ 8,000人になったら、抜擢を「仕組み」にした
ここが一番面白いところだと思う。
抜擢は、上司の目利きに頼りやすい。
社員が少ないうちは、社長や役員が若手の顔と名前を全員知っている。
でも、8,000名近くになるとそうはいかない。
石田氏は、採用レベルが上がって優秀な若手が増えているのに、全社的に把握しきれていないせいで抜擢の機会が減ってしまうことに危機感を持っていたと話している。
そこで始めたのが「強化指定社員セレクション会議」だ。
やり方はこうだ。
若手をよく知る管理職19名が、それぞれ若手を3名選ぶ。
↓
計57名について、管理職が役員陣にプレゼンする。
↓
プレゼンするのは「1.経歴、2.本人志向、3.能力開発テーマ」の3つ。
↓
藤田氏をはじめ専務以上の執行役員が、半日かけて議論する。
さらに事前に「ポスト版あした会議」を開き、空席や兼務で手が回っていないポスト、成長機会になる新しいポストを洗い出して、21のポストを捻出した。
つまり、
「任せたい人」のリスト と 「任せられる席」のリスト
を両方そろえてから、マッチングしている。
結果について、石田氏は「皆で優秀な若手を知ることができた、という点で大成功でした。」と振り返っている。
実際に、後日の役員合宿や「あした会議」で異動が決まった若手もいて、人事決定のスピードが上がったという。
もう一つの効果が、プレゼンした管理職側の「洞察力」が養われたことだ。
自分のメンバーの能力やキャリアを、どこまで深く考えているか。
それが役員の前で試される。
抜擢は若手のための制度に見えて、実は上司の育成力も鍛えている。
⑥ ただし、誰でも放り込めばいいわけではない
ここまで見てきたように、サイバーエージェントは若手に早い段階から仕事を任せている。
でも、ただ仕事を渡せば人が育つわけではない。
石田は、活躍する人の共通点について「やはり「素直でいい人」に尽きます。」と話している。
会社は市場に合わせて変わり続けるので、変化を受け入れて適応し続けられる素直さが必要だという。
そして、育成プログラムを待つ姿勢には釘を刺している。
与えられた座組みを消化するだけでは成長に限界があります。
抜擢は、任せる側の仕組みだけでは回らない。
任された側が、自分で機会を取りにいく姿勢があって初めて、決断と学習のサイクルが回り出す。
もう一つ大事なのが、失敗したあとの扱いだ。
石田は「失敗しても次のチャンスがある。」という空気が当たり前になれば、若手は自然と挑戦できるようになると話している。
任せるなら、失敗も込みで任せる。
この覚悟がない抜擢は、ただの丸投げになると思う。
⑦ 明日から真似するなら
サイバーエージェントほどの規模や制度がなくても、真似できることはある。
まず、部下を一人思い浮かべて、
経歴 本人がやりたいこと 次に伸ばしたい力
の3つを書き出してみる。
強化指定社員セレクション会議で管理職がプレゼンしている項目と同じだ。
書けないなら、その人のことをまだ知らないということになる。
次に、その人に任せられる小さな仕事を1つ決める。
そして、任せるときは「空いたから」ではなく、
「〇〇さんなら、ここで△△の力が伸びると思う」
と、期待の理由を言葉にして渡す。
あとは、相手が自分で決めて、小さく失敗して、軌道修正するのを待つ。
まとめ
サイバーエージェントの抜擢を整理すると、こうなる。
小さなことでもいいので、期待して任せる。
↓
本人に決めさせる。
↓
小さな失敗を当たり前のものとして受け止める。
↓
軌道修正して、次の抜擢につなげる。
そして会社が大きくなったら、この流れが上司の目利きだけに頼らないよう、若手の情報とポストの情報を集めて仕組みにする。
やっていること自体は、特別な研修ではない。
「任せる」を、どれだけ多く、どれだけ丁寧に繰り返せるかだ。
人は、準備ができたから任されるんじゃない。
任されたから、準備を始める。



